今は無いという記憶。

モノノ怪」鵺(ぬえ)・後編。
立て続けに人が惨殺されたものの、それが物の怪に因るものなのか有耶無耶のままだった前編。
聞香のように“東大寺”が何であるか問い掛け、答えを聞く薬売り。そして死者が出た状況の中でも、組香を再開しようとする三人。
薬売りが香元を申し出て、“恐怖の”竹取香が始まる…。


鵺・前編レビュー / 化猫・序の幕レビュー
以下ネタバレ。




薬売りが香を焚く、その時点で既に危険な匂い…。案の定、香木に猛毒の夾竹桃の枝をうっかり使ってしまったと言い出す始末。
それでも恐る恐る聞香を始めるが、各々の秘密を暴かれ次々と果てる三人。奇妙と思えるほどすんなり死んでいったが、それは物の怪の“形”を得るきっかけに過ぎなかった。


この屋敷に潜むのは貴重な香木に憑いた、その価値に魅せられた人間を引き寄せ、姿形を変えて取り殺す凶悪な物の怪だった。既に廃墟となっていた屋敷にそのまま縛り付けられた無数の魂は、夜な夜な終わり無き組香を行ない続けていたのである。薬売りの退魔の剣が解き放たれ、物の怪が祓われると同時に、蘭奈待の香りと共に引導を渡された魂達。しかし死しても尚、それを求めていつまでもその場所に漂っていた彼らは、もしかしたら永遠に香を聞き続けるのかもしれない。
香の聞く能力は長けていながら、目で見えるものは明察出来なかった欲に駆られた人々。やり過ぎた物の怪の所業も厄介だが、自身の感覚を鈍らせる人間の底知れぬ強欲さも質が悪い。


鵺は躰の見る場所によって姿が違うという。それは、三人の香の感じ方や香木に対する人々の捉え方、幻であった屋敷の佇まいにもつながるのか。
“鵺”を生み出したのは、東大寺に価値を見出す人々の欲望、自分を取り繕うための自我。火で焚かなければ香は立たないように、人の邪な心が無ければ物の怪は胚胎し得ないのである。


さてさて、このレビューも…満ちたようで御座います(笑)


モノノ怪 四之巻 「鵺」


ついでに↓
蘭奢待 - Wikipedia
蘭奈待は造語?